仮想と現実の真ん中あたり

主に舞台探訪とか聖地巡礼と呼ばれる記録をつづるブログ

「ももんち」

ももんち (ビッグコミックススペシャル)

ももんち (ビッグコミックススペシャル)



ここ最近、冬目景先生のコミックが続々と発売されて、ファンとしては非常に嬉しい状況になってますが、この「ももんち」もそんな中の一冊です。
冬目景先生の作品というと、登場人物の「感情のすれ違い」とか切迫した感情が生み出す緊張感をベースにしたストーリーで、それらが独特の筆致でカンバス画風に描かれる事によって醸し出される、何ともいえない切なさ,孤独感といったものが胸にせまって来るイメージがあります。


私はその作風の頂点が「羊のうた」だったと思うのですが、最初に読んだあの作品の印象があまりに強烈すぎて、その後の同傾向の『冬目景作品』に対して若干物足りなさを感じてもいました。
羊のうた」は、“死”と“生まれつきの運命”という、あらがいようのない強い力に翻弄される登場人物達を描いた作品でした。その特異な設定がストーリーにもたらす強い緊張感、そして断絶から生まれる強い孤独感、それらによって感情に対して強い刺激をたらす「羊のうた」は、ある種の麻薬のような魅力を持った作品だった一方で、それ以降同じような傾向の作品を読んでも、別の作品としての面白さは確かにあると思う反面、「刺激が足りない」感じがしてならなかったのも、また事実でした。


しかし、この「ももんち」は、そんな「羊のうた」後遺症を、全く別の方向性から打ち破る魅力にあふれた快作です。
美術予備校という冬目先生の作品ではよく登場する設定を舞台にしつつ、そこに展開する物語は、登場人物の気持ちがカッチリと噛み合った、これまでにないヒューマンテイストにあふれるものです。
そこには登場人物の気持ちのすれ違いは無く、重ねられる相手を思いやる気持ちにあふれたセリフ,そして行動が、主人公を前向きな未来へと背中を押して行きます。
作品中で唯一すれちがっていると思われた人物でさえ、一番最後に実は…、という素敵な展開が用意されていたりまします。


冬目景先生の最高傑作は『羊のうた』だった」、そんな思いを持つ人にオススメしたい、冬目景先生の最新作です。