仮想と現実の真ん中あたり

主に舞台探訪とか聖地巡礼と呼ばれる記録をつづるブログ

『咲-Saki-』カラーイラストに見るたしかな目線

 やあ、ワトソン君。久しぶりだね。まぁ、掛けたまえ。
 それにしても、令和に入ってからの『咲-Saki-』探訪界は凄いことになっているね。今まで難題と言われて来た舞台が次々と発見されてるよ。まるで、新時代の扉が「ギギギ…」と開いてしまったみたいじゃないか。
 …ああ、僕もつい最近、第5巻総扉絵の舞台を発見出来たがね。でも、僕ももう現役引退の身だからね。先駆者が見つけた舞台に行ってみたら偶然見つけたようなものさ。まぁ、その話は機会があればまた今度にしよう。
 それよりも、現地に行ってみたら、その第5巻総扉絵を含む、いわゆる『魚眼三部作』の謎に今さらながら気がついたのだがね。…聞きたいかい?
 タイトルは、そうだな、君風に名付けるなら、

 なぜ、第6巻カラー口絵のキャプテンの視線は上を向いているのか?
 …なんてどうだい?

 岐阜県中津川市 神坂付近 
 第6巻 カラー口絵(P2-3) 
 舞台探訪者の心得
 ・舞台を荒らさないこと。 ・住民に迷惑をかけないこと。 ・舞台での行動は慎重に。


 『咲-Saki-』の第5巻扉絵,第6巻表紙カバー絵,第6巻カラー口絵(P2-3)の三作は、魚眼構図の背景イラストになっているよね?

 第6巻 カラー口絵(P2-3) 
 第5巻 総扉絵 
 第6巻 表紙カバー裏 

 この三作は、発表時期と現地の近さから、同じ時期に取材されたものと考えて良いだろう。言うなれば、『魚眼三部作』だ。
 どれも長野・中津川ならではののどかな風景の中に可愛いキャラがマッチした素晴らしいイラストじゃないか。キャラはもちろん小林立先生、そして背景はコミックのエンドクレジットからするとヤオキン先生だ。
 絵の中のキャラが、ごく自然に背景にマッチして描かれているよね?
 “ごく自然に”。…実は、ここに問題が潜んでいるのだよ。
 もう一度、各イラストに描かれたキャラを抜き出して、その視線を比較してみよう。

 キャプテン(第6巻 カラー口絵(P2-3)) 
 のどっち(第5巻 総扉絵) 
 部長(第6巻 表紙カバー裏) 

 キャプテンの視線は上を向いていて、のどっちの視線は上目気味、そして部長の視線はごく普通に描かれている。
 さて、一体なぜキャプテンやのどっちの視線は上を向いているのだろうね?
 こんな疑問を解き明かす時こそ、作品世界と現地を行き来する舞台探訪の出番さ。というわけで、実際に現地に行って計ってみたよ。

 第6巻カラー口絵(P2-3)の舞台 
 撮影高さ:約194cm 

 これはずいぶん視点が高いね。このために現地に脚立を持ち込んで、ようやく撮影出来たよ。
 「なぜ、第6巻カラー口絵のキャプテンの視線は上を向いているのか?」
 その答えは、「元の背景写真が高い位置から撮影されていたから」、というわけだ。
 次に、第5巻 総扉絵も調べてみよう。

 第5巻 総扉絵の舞台 
 撮影高さ:約183cm 

 こちらも結構高い視点だ。レンズの高さで183cmだから、脚立なしだと身長190cmぐらいでないとこの構図では撮れないだろう。
 第6巻 表紙カバー裏は計るのを忘れてしまったが、ちょうど僕の身長で撮れているから、撮影した高さはだいたい170cm前後だろう。
 もう一度、イラストと合わせて整理してみよう。

撮影高さ約194cm
身長(キャプテン)158cm
撮影高さ約183cm
身長(のどっち)154cm
撮影高さ約170cm
身長(部長)164cm

 ※身長のデータは小林立先生のサイトによる。

 …気がついたかい? そう、キャラの身長よりも高い位置から撮られている場合は上向きの視線に描かれ、身長と同じ高さの場合には普通の視線に描かれているのだよ。
 キャラの身長と撮影された高さを意識して視線を描き分けているなんて、驚くべきことじゃないか!
 「絵の中のキャラが、ごく自然に背景にマッチして描かれている」ように見える理由の一つがこれだったわけだ。

 だが、ちょっとだけ立ち止まって考えてみて欲しい。実は、ここに「自然」でないことが潜んでいるんだ。僕も長年見落としていたことだがね。それは…、
 なぜヤオキン先生が描かれた背景の中に、小林先生の見上げる視線のキャラが描かれているのか?
 この問いは、言い換えるなら、つまり、
 なぜ小林先生は、このヤオキン先生が描かれた背景の元写真が、高い位置から撮影されたことを知っていたのか?
 ということに他ならない。

 これには、次の3つの仮説が考えられる。
 1. 小林先生が背景の元になる写真を撮影され、ヤオキン先生に渡された。
 2. 誰かが写真を撮影し、それを小林先生に渡し、さらにそれを小林先生がヤオキン先生に渡された。
 3. ヤオキン先生(または誰か)が写真を撮影されて背景が描かれ、それを小林先生に渡された。
 昔から咲-Saki-ファンの間で言われている、「『咲-Saki-』の背景写真は本当に小林先生ご本人が現地取材されているのか?」問題だね。(読者にとっては良い絵ならどれでも良い話ではあるけれども)
 しかし、この『魚眼三部作』においては、2,3番目は自然ではない。写真や背景を渡す際に、わざわざ「この写真は高さ○○cmで撮影しました」と伝えなければならないからだ。

 さらに考慮すべき点は、高い位置から撮影すると、キャラの描き方にも影響してくることだ。
 一体どういうことかって? それを調べるために、描かれている各キャラにパース線を引いてみよう。

撮影高さ約194cm
身長(キャプテン)158cm
撮影高さ約183cm
身長(のどっち)154cm
撮影高さ約170cm
身長(部長)164cm

 何しろ絵心のない僕がExcelの描画ツールで描いたパース線だから、まぁ、感覚的に「キャプテンとのどっちの絵は、部長よりパースがついているんだね」ぐらいが伝わってもらえるとありがたい。
 この背景写真を撮影した人は、高い位置から写真を撮るとキャラを見下ろす構図、つまりキャラを描く際に上下方向のパースをつけなければならない事が予想出来たはずだ。
 しかし、第5巻総扉絵までは、『咲-Saki-』にこんな高い視点からの構図=キャラに上下のパースがついているイラストは、僕の見るかぎり無いようだ。
 なぜ、この背景写真の撮影者は、あえて小林先生の作例が少ない構図で撮影したのか?
 ここまで状況がそろえば、小林先生ご本人が上下方向にパースのついた、つまり上下方向に立体感のあるイラストに挑戦したくなり、最初から意図して脚立(か三脚,一脚)などを用意して高い位置から撮影された、と考えるのが自然だろう。

 だいぶ謎が解けて来たようだね。それでは、最後の謎に挑戦してみよう。
 なぜ、この背景写真はわざわざ魚眼レンズで撮られているのか?
 これも、舞台探訪者ならでは、現地で確認するのが早いだろう。
 僕の知るかぎり、第6巻カラー口絵(P4-5)から使われ始めた広角レンズが16mm(フルサイズ換算)相当だが、この広角レンズと魚眼レンズで撮った背景を比較してみよう。

広角レンズ(Tokina AT-X 12-28 PRO; APS-C 12mm)
魚眼レンズ(Tokina AT-X 107 DX Fisheye; APS-C 10mm)

 普通の広角レンズでは、上の位置から見下ろして撮ると、上下方向の立体感は出せても水平方向の奥行き感が出せなくなるのが分かるだろう?
 小林先生が奥行き感のある背景構図を好まれるのは、よく知られている通りだ。そして、おそらく、この第5巻 総扉絵と第6巻カラー口絵では、キャラの上下方向にも立体感を出そうと意図されたのではないだろうか?
 しかし、普通の広角レンズでは上から見下ろして撮ると水平方向の奥行き感が出せない。そこで、魚眼レンズでキャラの立体感と背景の奥行き感を両立しようとされたのではないだろうか?
 以上の話はあくまで仮説にすぎないがね、僕にはそれが一番無理のない解釈だと思えるのだよ。

 おっと、すっかり話が長くなってしまったようだ。ところで、来月の3月25日には、『咲-Saki-』第20巻と『シノハユ』第12巻、そして『怜-Toki-』第6巻が発売になるそうだね。今度はどんな舞台が登場するのか、大いに気になって来ただろう? 楽しみに待とうじゃないか、ワトソン君。

 そして最後に、度重なる取材に同行し、メジャーも持って協力してくれた宵待月に感謝を。

 本記事内の『咲-Saki-』画像の著作権小林立先生にあり、ここでは当該作品の比較研究を目的として引用しています。